千葉県の静かな集落で、800年も前から続く「全国唯一の地獄劇」が開かれているのをご存知ですか?
異空間のような独特の雰囲気、そして心に刺さる鬼の教え……。
まるで地獄絵巻の中に迷い込んだような不思議な体験ができる「鬼来迎(きらいごう)」について、2026年の開催情報とあわせて分かりやすくご紹介します!
1. 鬼来迎とは?

千葉県山武郡横芝光町に、「虫生」という地名があります。
田園風景が広がるこの静かな集落に、鎌倉時代から約800年もの間、絶えることなく伝承されてきた全国でも極めて珍しい仏教劇があります。
それが「鬼来迎」です。
地元では親しみを込めて「鬼舞い」と呼ばれています。
なぜ800年も続いているの?
鬼来迎は、仏教の
- 因果応報
良い行いをすれば良い報い、悪い行いをすれば悪い報いがある。
- 勧善懲悪
善を勧め、悪を懲らしめる。
を、セリフや仮面劇を通して伝える、非常に奥深い伝統芸能です。
かつて文字を読めなかった人々や子供たちに向けて、地獄の恐ろしさを視覚的に見せることで、亡くなった人への供養の心を育て、現世を正しく生きる教えとして活用されてきました。
現代における価値
この劇で使われる「鬼の面」や独特の演出は、中世日本の芸能の姿を今に伝える貴重な文化財として、国の重要無形民俗文化財に指定されています。
また、平成25年(2013年)に制作されたドキュメンタリー映画『鬼来迎』は、その歴史的・文化的価値が高く評価され、文化庁映画賞(文化記録映画部門)優秀賞を受賞しました。
娯楽の溢れる現代においても、毎年8月16日になると県内外から多くの見物客が訪れます。
仮面をつけた鬼たちが繰り広げる「地獄絵巻」は、時代を超えて現代を生きる私たちの心にも、鮮烈なメッセージを投げかけています。
2. 鬼来迎 2026 開催概要
今年の鬼来迎は、8月16日(日)に行われます。
所要時間は1時間半ほどです。
行事の簡単な情報をまとめました。
| 鬼来迎(2026年) | |
|---|---|
| 日程 | 2026年8月16日(日)※毎年同日 |
| 開催時間 | おおむね15:00頃~(施餓鬼供養終了後) |
| 開催場所 | 広済寺 |
| 料金 | 観覧無料 |
| 住所 | 千葉県山武郡横芝光町虫生483 |
| お問合せ | 0479-84-1358 (社会文化課生涯学習班) |
| 公式HP | 横芝光町商工会 |
| 駐車場 | あり(収容台数:約30台以上/無料 ) |
▼会場となる広済寺の地図はこちらです。
雨天時の場合は?
鬼来迎は、原則として雨天決行です。
地域では「一度でも休むと疫病が流行る」という言い伝えがあり、その伝統を守るためにどのような天候であっても上演が続けられてきました。
ただし、近年では感染症対策(2020年・2021年)や、台風の接近(2024年)といった不可抗力により、中止を余儀なくされた事例もあります。
伝統を守る姿勢は変わりませんが、現在は安全面を最優先にした開催判断が行われます。
荒天の場合は開催の判断が変わる場合もありますので、お出かけ前にお問い合わせください。
お問い合わせ先:
横芝光町役場 社会文化課生涯学習班
電話:0479-84-1358
3. 鬼来迎のあらすじは?
鬼来迎の物語は、仏教の「因果応報」と「勧善懲悪」の教えを、以下の2つの物語で構成しています。
- 第一話 地獄が舞台のお話
『大序、賽の河原、釜入れ、死出の山』の4段
- 第二話 広済寺建立縁起のお話
『和尚道行、墓参、和尚物語』の3段
話の中に仏教用語も出てきますので、ここではわかりやすく簡単にあらすじを解説します。
第一話:地獄が舞台のお話
地獄の恐ろしさと、そこからの救済を描いた全4段の構成です。
この舞台では、地獄に堕ちて閻魔大王や鬼などに責められて苦しむ亡者が「主人公」です。
亡者だけが素顔で、他は全て仮面をつけています。
第一段「大序(だいじょ)」
まず最初に、地獄の閻魔の裁き所にて、閻魔大王、倶生神、鬼婆、そして赤鬼・黒鬼たちが勢揃いし、亡者に対して地獄の審判が行われます。
この亡者に「娑婆国中の大悪人」と判が下り、鬼たちは亡者を連れ去ります。
仏教には因果応報の思想にもとづいて、
という教理があるため、審判が必要となるわけです。
第二段「賽の河原(さいのかわら)」
続いて「賽の河原」の幕が開きます。
亡者になった子供たちは河原で悲しげに石を積み上げています。
親に先立ったため成仏できず、三途の川も渡れないまま父母への供養のために石積みを続けているのです。
するとそこに黒と赤の鬼が大笑いしながら飛び出し、子供たちを連れ去ろうとします。
そこへ地蔵菩薩が現れ、鬼を打ち払って救い出します。
第三段「釜入れ(かまいれ)」
場面が変わり、地獄の責め苦の中でも最も凄惨な「釜茹で」の場面です。
鬼来迎では「釜入れ」と呼びます。
逃げ惑う亡者を鬼婆が捉え、熱湯の釜へと投げ込みます。
その容赦のない光景は、観る者に強い衝撃を与えます。
最後は「首でも切って食らおうか」と、鬼たちが亡者を吊し上げ、退場となります。
第四段「死出の山(しでのやま)」
亡者の歩む冥途の旅は、死出の山から始まります。
杖をたよりにただ一人、暗い広野を死出の旅に出かけるのです。
鬼に追い立てられ、岩でたたかれ、また落ち、口から血を流して苦しむ亡者。
しかし最後に観音菩薩の登場で、浄土へ成仏していくというものです。
鬼は悔しがり「さては成仏いたせしか!」と亡者の卒塔婆を投げ捨て、怒号を発します。
【このお話のまとめ】地獄の先に待つ救い
鬼来迎は、ただ恐ろしい地獄の姿を見せるだけの劇ではありません。
それぞれの亡者たちは、さまざまな苦難の末に、地蔵菩薩や観音菩薩の慈悲によって救われ、成仏していきます。
この「地獄という厳しい現実」と「仏の救済」を対比させることで、観る者に「今をどう生きるべきか」という深い問いを投げかけているのです。
広済寺建立の物語
この物語は、現在上演はされておりませんが、「鬼来迎」の背景にあるお寺の成り立ちを知る上で欠かせない伝説です。
僧侶・石屋の夢と、領主の悔恨
かつて、薩摩の国から諸国を行脚する僧侶「石屋」という人物がいました。
あらゆる生きとし生けるものを迷いから救い、悟りの境地へと導くことを志していた彼は、旅の途中で虫生の地に立ち寄り、ある辻堂で仮寝の宿をとりました。
その夜、石屋の夢の中に17歳の少女「妙西」が現れます。
彼女は地獄の鬼たちに責め立てられ、苦しんでいました。
翌日、偶然にもお墓参りに訪れた妙西の父、「椎名安芸守」と偶然出会った石屋は、見たばかりの嫌な夢の話を伝えます。
その内容を聞いた安芸守は、「それは早世した自分の娘に違いない!」と直感し、大きな衝撃を受けました。
寺の建立へ
領主として領民に過酷な政治を行ってきたことを深く恥じ、悔い改めた安芸守。
愛する娘の冥福を祈り、同時に領民たちを苦しみから救うために、「広済寺」を建立することを決意したと伝えられています。
💡豆知識
現在、この物語の詳細は、光町図書館で保存されている当時の映像資料などで閲覧することが可能です。
かつて上演されていた当時の雰囲気や、寺の起源となった伝説の重みを感じることができる貴重な資料となっています。
4. 鬼来迎 スケジュールの流れ
当日のスケジュールは、以下の通り進行します。
時間は目安となりますので、当日の進行状況により前後する場合があることをあらかじめご了承ください。
- 15:30舞台清め
- 15:40鬼来迎保存会 会長の挨拶
- 15:50疳の虫封じ
- 16:00大序
- 16:20賽の河原
- 16:40釜入れ
- 16:50死出の山
- 17:00閉幕
赤字部分が演劇です。
近年は炎天下で暑さが厳しいため、疳の虫封じは、赤ちゃんの健康を考慮して演劇の前に行うことになりました。
5. 鬼来迎の見どころは?
鬼来迎は、単なる伝統行事の枠を超え、見る者の心に深く刺さる「生の舞台」です。
ここでは、特に注目したいポイントをご紹介します。
① 異空間を醸し出す、真に迫った演技
出典;http://sanei-maintenance.seesaa.net
毎年8月16日の午後、緑の枝葉に囲まれた舞台に独特で迫力のある「鬼面」が佇む姿は、なんとも不気味で不思議な異空間を生み出します。
特筆すべきは、その演出です。
セリフや動きはすべて「鐃鈸」という仏教音楽に使われるシンバル状の楽器と、床を叩く音だけで構成されています。
素人とは思えないほど鍛え抜かれた演技は、鎌倉時代から忠実に守り伝えられてきた伝統の重みを感じさせます。
出典;http://hanachan62jp.sakura.ne.jp
「賽の河原」での南無阿弥陀仏や石積の歌はあまりにも悲しく、多くの親御さんの涙を誘うほどです。
② 胸に刺さる「鬼の言葉」
出典;http://www.dydo-matsuri.com
鬼たちが亡者を責め立てる中で放つ言葉は、現代を生きる私たちの心にも鋭く突き刺さります。
「堂塔仏閣に一度の参拝もなく、一紙半銭の施しもなく、昼は世路の暇を惜しみ、夜は鷲鳶の衾を重ね、空しく財色滋味をむさぼるばかりなり」
この言葉は、欲に溺れがちな私たちへの厳しい戒めでもあります。
しかし、菩薩が「鬼王たちの申すところ道理であるが、それでも許せ」と立ちはだかり、亡者を救い出すシーンには、多くの見物人が深い感動を覚えます。
③ 赤ちゃんの健やかな成長を願う「疳の虫封じ」
出典;https://yoridokoro.chiba.jp
舞台に登場する恐ろしい「鬼婆」に赤ん坊を抱いてもらうと、疳の虫が驚いて治まるといわれている伝統の儀式です。
赤ちゃんが泣き出せば会場は一気に盛り上がり、緊張感のあった会場が温かな笑いに包まれます。
泣かない大物の赤ちゃんが現れると、鬼婆もたじろぐようなコミカルな一面を見せることも。
地域の家族はもちろん、県外からも赤ちゃんの健やかな成長を願って多くの親子が訪れます。
6. 鬼来迎の会場の様子は?持ち物は?
出典;https://yoridokoro.chiba.jp
会場となる広済寺は、田園の中にひっそりと佇む静かなお寺です。
当日は独特の空気に包まれますが、観覧にあたって知っておくべきポイントをまとめました。
① 会場の雰囲気
特設の舞台が設置されますが、周囲に大きな売店や屋台が並ぶような場所ではありません。
入り口付近に飲料を扱っているお店がある程度ですので、お買い物は事前に済ませてから来場されることをおすすめします。
② 服装・持ち物リスト
炎天下での観覧となりますので、以下の準備があると安心です。
- 熱中症対策グッズ
帽子、飲み物、汗を拭くためのタオル。
- 暑さ対策
日傘の使用は周囲の方の迷惑になるため控え、代わりに長袖の薄手の上着や日焼け止めを活用しましょう。
- 携帯用クッション・敷物
客席としてパイプ椅子が約60脚用意されますが、満席になりやすいです。
立ち見や、レジャーシートを敷いて地べたに座って観覧する方も多いため、コンパクトな敷物があると快適です。
③ 撮影について
出典;http://otsnews.jp/stories/4504
毎年、会場の後方にはカメラ撮影のためのスペースが設けられ、三脚や脚立を立てて本格的に撮影する方も多く見受けられます。
貴重な伝統芸能の瞬間を収めたい方は、早めに場所を確保しましょう。
④「疳の虫封じ」の受付
出典;http://otsnews.jp/stories/4504
見どころでも紹介した「疳の虫封じ」を希望される方は、当日に会場入り口で受付を行います。
赤ちゃん連れの親子は毎年20組前後、来場しているようです。
受付から開演までの時間を考慮し、少し早めに到着しておくと安心です。
7. アクセス・駐車場について
鬼来迎の会場となる「広済寺」へのアクセス方法をご紹介します。
電車の場合
JR総武本線「横芝駅」下車
- 駅から会場までは徒歩で約45分ほどかかります。
- 駅からのバスは運行本数が非常に少ないため、駅前からタクシーを利用することを推奨します。(タクシーで約10分)
車の場合(駐車場について)
圏央道「松尾横芝IC」から約15分
※銚子連絡道路は圏央道と接続されているため、お越しの際はナビ等でご確認ください。
駐車場について
広済寺の専用駐車場のほか、近隣に臨時駐車場も用意されます。
駐車場には限りがあります。また、当日は会場周辺の交通規制や誘導員の指示がある場合がありますので、必ず係員の誘導に従って駐車してください。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
地獄の惨さを狂言にして、死者供養の必要を説く。
鬼来迎は、長い時代を超えて伝承され続けている日本唯一の貴重な演劇です。
興味のある方は是非、足を運んでみて下さいね。








