千葉県の集落で、全国で唯一の古典的地獄劇が開かれているのをご存知ですか?なんとも不思議な一大地獄絵巻です。一体どんなお芝居なのでしょうか?今回は「鬼来迎(きらいごう)」についてご紹介します。
鬼来迎とは?
千葉県山武郡横芝光町に、虫生という変わった名前の集落があります。
戸数もわずか25戸ほどの、平坦な田畑の中に農家が点在しています。
ここに、全国でも珍しい仏教劇が伝承されていて、その名も「鬼来迎」といいます。
その起源は約800年前、鎌倉時代初期に始められたとされる重要無形民俗文化財で、仏教の因果応報や勧善懲悪を説いている、非常に奥深い内容になっています。
日頃信心に浅い私たちや子供たちを論すのは難しいものですが、地獄のむごさを狂言にして見せ、亡くなった人への供養の必要性を納得させてきました。
平成25年にこの演劇のドキュメンタリー映画が制作され、
翌年には文化庁映画賞(文化記録映画部門)文化記録映画優秀賞を受賞しました。
地元虫生では「鬼舞い」と呼ばれ親しまれ続けている鬼来迎は、毎年県内外から300人以上もの見物客が訪れ、多くの人々を魅了し続けています。
2019年 鬼来迎の日程・開催時間など
今年の鬼来迎は、8/16(金)に行われます。
所要時間は1時間半ほどです。
行事の簡単な情報をまとめました。
雨天時の場合は?
雨天決行です。お天気が不安定な場合は雨具を持って行きましょう。
鬼来迎は一度でも休むと疫病が流行るとされ、上演が続けられています。
荒天の場合は開催の判断が変わる場合もありますので、お出かけ前にお問い合わせください。
問い合わせTEL:0479-84-1358 (社会文化課生涯学習班)
鬼来迎のあらすじとは
仏教の因果応報や勧善懲悪の教えを、2つの物語で観ることができます。
- 第一話 地獄が舞台のお話
『大序、賽の河原、釜入れ、死出の山』の4段
- 第二話 広済寺建立縁起のお話
『和尚道行、墓参、和尚物語』の3段
話の中に仏教用語も出てきますので、ここではわかりやすく簡単にあらすじを解説します。
地獄のお話
地獄の舞台では、地獄に堕ちて閻魔大王や鬼などに責められて苦しむ亡き者が主人公です。
亡き者だけが素顔で、他は全て仮面をつけています。
第一段「大序」
地獄の閻魔の裁き所にて、閻魔大王、倶生神、赤鬼、黒鬼、鬼婆が勢揃いし、亡者に対して地獄の審判が行われます。
この亡者に「娑婆国中の大悪人」と判が下り、鬼たちは亡者を連れ去ります。
仏教には因果応報の思想にもとづいて、現世の悪業の結果は地獄へ、善業の結果は天国へという教理があるため、審判が必要となるわけです。
第二段「賽の河原」
続いて「賽の河原」の幕が開きます。
亡者になった子供たちは河原で悲しげに石を積み上げています。
親に先立ったため成仏できず、三途の川も渡れないまま父母への供養のために石積みを続けているのです。
するとそこに黒と赤の鬼が大笑いしながら飛び出し、子供たちを連れ去ろうとします。
そこへ地蔵菩薩が現れ、鬼を打ち払って救い出すというお話です。
第三段「釜入れ」
場面が変わり、もう一つの地獄の責め苦である亡者の釜茄でです。
鬼来迎では「釜入れ」と呼びます。
逃げ惑う亡者を鬼婆が釜に投げ入れ、釜茹でにされるという、まさに凄まじい光景です。
最後は「首でも切って食らおうか」と、鬼たちが亡者を吊し上げて退場となります。
第四段「死出の山」
亡者の歩む冥途の旅は、死出の山から始まります。
杖をたよりにただ一人、暗い広野を死出の旅に出かけるのです。
鬼に追い立てられ、岩でたたかれ、また落ち、口から血を流して苦しむ亡者。
しかし最後に観音菩薩の登場で、浄土へ成仏していくというものです。
鬼は悔しがり「さては成仏いたせしか」と亡者の卒塔婆を投げ捨て、怒号を発します。
このように、それぞれの亡者達はさまざまな苦難の末に、地蔵菩薩や観音菩薩の慈悲によって救われ、成仏するというお話です。
広済寺建立の物語
このお話は、現在上演していませんが、あらすじを書いておきます。
石屋という薩摩の国の僧侶が、生きている全てのものを迷いから救い出し、悟りの境地へと導こうと、諸国を旅していました。
そのとき虫生の町に立ち寄り、辻堂を仮寝の宿にしたところ、
「妙西」という17歳の女の子の新霊が、地獄の鬼たちに責められているのを夢に見たのです。
次の日、お墓参りに来た妙西の父「椎名安芸守」に偶然出会い、石屋は安芸守に昨日見た嫌な夢の話をしました。
それを聞いた安芸守は、それは早世した自分の娘に違いない!と驚き、領主として領民たちに悪政を強いてきたことを悔い改めるようになりました。
娘の冥福を祈って供養したいために、広済寺を建立する、というお話です。
鬼来迎 スケジュールの流れ
鬼来迎が開催される当日のスケジュールは以下の通りです。
時間は前後しやすいので、おおよその目安としてご一読ください。
時間 | イベント |
---|---|
15:30 | 舞台清め |
15:40 | 鬼来迎保存会 会長の挨拶 |
15:50 | 疳の虫封じ |
16:00 | 大序 |
16:20 | 賽の河原 |
16:40 | 釜入れ |
16:50 | 死出の山 |
17:00 | 閉幕 |
赤の文字が演劇です。
近年は炎天下で暑さが厳しいため、疳の虫封じは、赤ちゃんの健康を考慮して演劇の前に行うことになりました。
鬼来迎の見どころは?
鬼来迎の見どころについてご紹介します。
まずは鬼来迎のお祭りの概要がわかる、紹介動画をご覧ください。
真に迫った演技
出典;http://sanei-maintenance.seesaa.net
世にも恐ろしい鬼舞い狂言ではありますが、嬉しいことに明るい日中に演じられます。
毎年8月16日の午後、見物人は猛暑の中集まってきて腰をおろし、開演を待ちます。
緑の枝葉に囲まれた舞台で、そこに現れた独特で迫力のある鬼面がたたずむ姿は、なんとも不気味な異空間が感じられます。
演劇中はすべて「鐃鈸」という仏を讃えるお寺のシンバルと、床を叩く音だけで巧妙に演出されます。
さらに、セリフといい演技といい、素人とは思えないほどに修練されていて、鎌倉時代からのものが忠実に守り続け伝えられていることから、芸能史的にも大変貴重です。
出典;http://hanachan62jp.sakura.ne.jp
「賽の河原」での南無阿弥陀仏や石積の歌はあまりにも悲しく、多くの親御さんの涙を誘うほどです。
観音菩薩・地蔵菩薩の慈悲
出典;http://www.dydo-matsuri.com
見る人は地獄の恐ろしさと鬼どもの迫力に圧倒されるとともに、鬼が話す言葉が、現代を生きるわたしたちの胸に刺さります。
「堂塔仏閣に一度の参拝もなく、一紙半銭の施しもなく、昼は世路の暇を惜しみ、夜は鷲鳶の衾を重ね、空しく財色滋味をむさぼるばかりなり」
しかし菩薩は立ちはだかり、こう言います。
「鬼王たちの申すところ道理であるが、それでも許せ」
わたしたちは裁きの場で戒めを守ったかどうか問われたとき、この輪廻から抜け出ることはできるのでしょうか。
芝居の中で、菩薩に救われ浄土に旅立つ亡者の姿に、きっと私たちも自分に重ね、また亡くなった家族を重ねて見ることができるかもしれませんね。
鬼婆の御利益「疳の虫封じ」
出典;https://yoridokoro.chiba.jp
舞台に登場する鬼婆に赤ん坊を抱いてもらうと疳の虫が驚いて治まるといわれていて、
たくさんの赤ちゃんが母親から、ステージ上にいる恐ろしい仮面をつけた鬼婆にバトンタッチされます。
赤ちゃんが泣くと会場は盛り上がり、演劇前の緊張感から和やかな雰囲気に変わります。
泣かない赤ちゃんがいると、鬼婆はユラユラ揺すったり、「うおー」と奇声を上げます。
それでも泣かない大物の赤ちゃんの出現に鬼婆の立場もなくなり、会場でも笑いのなか、お母さんに返される場合もあります。
近隣地域をはじめ、県外では東京などからも人がやってきて、赤ちゃんの健やかな成長を願うたくさんの人々を魅了し続けています。
鬼来迎の会場の様子は?持ち物は?
出典;https://yoridokoro.chiba.jp
屋台などはなく、飲料を売っているお店が入口に一軒あります。
炎天下のなか外での観覧になりますので、熱中症対策に、飲み物や帽子、汗をふくタオルも持参したほうが良さそうです。
客席はパイプ椅子が60客ほど、満席になっても、立ち見もできます。
レジャーシートを持参して、横の地べたに座って観覧する方もいるようです。
出典;http://otsnews.jp/stories/4504
うしろにはビデオカメラの撮影許可ブースとなっていて、午後になると三脚や脚立が並び出します。やはり真ん中が人気ですね。
出典;http://otsnews.jp/stories/4504
見どころでもご紹介した、疳の虫封じは、事前に入り口で受付しておきます。
赤ちゃん連れの親子は毎年20組前後、来場しているようです。
アクセス・駐車場について
鬼来迎が行われる「広済寺」へのアクセス方法をご紹介します。
電車の場合
JR総武本線「横芝駅」下車後、徒歩約45分です。
駅前からのバスは運行本数がとても少ないため、駅前からタクシーの利用が推奨されています。
駅前からタクシーで10分ほどで会場に到着します。
車の場合
銚子連絡道路横芝光ICから、3kmほどで会場です。
広済寺の専用駐車場のほかに、臨時駐車場があります。
広済寺の専用駐車場が満車の場合には、係員の案内がありますので、それに従うようにしましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
地獄の惨さを狂言にして、死者供養の必要を説く。
鬼来迎は、長い時代を超えて伝承され続けている日本唯一の貴重な演劇です。
興味のある方は是非、足を運んでみて下さいね。