「土用」といえば「土用の丑の日」を思い浮かべますよね。
夏の暑い日にうなぎを食べるのが有名ですが、じつは「土用」は春夏秋冬で、年に4回あります。
今回は、土用の丑の日の意味や由来、さらにうなぎの意外なエピソードについてもご紹介します!
土用とは何?
土用とは、それぞれの季節の変わり目にあたり、次の季節ヘの準備期間にするために考えられたものです。
「土用」と聞くと、夏を連想する方が多いかもしれませんね。
土用の丑の日といえば、夏バテしないようにと、うなぎを食べるよね!
そう、確かに現在は、土用というと「夏の土用」をさします。
しかし本来「土用」とは、立春・立夏・立秋・立冬の前の、それぞれ18日間をさし、年に4回あるものです。
季節が変わりゆく時期は、気温や湿度も変わっていきます。
体調を崩す人もいたり、風邪をひいたり、からだが適応するのは大変ですよね。
ですから土用は、体調に気をつける必要があります。
なかでも、厳しい暑さへの注意が必要な「夏の土用」が、もっとも重要視されていました。
なので、一般的に土用といえば、夏の土用をさすようになったのです。
土用の「丑の日」とは何?
「土用」は季節の変わり目の期間(およそ18日間)。
では、それに続く「丑の日」とはどういう意味なのでしょう?
丑の日とは「十二支の丑」のこと
「土用の丑の日」は、その土用の期間中にやってくる日です。
「丑の日」は、12日ごとに巡ってきます。
なぜ12日ごとなの?
昔は日にちを数えるとき、「1・2・3・4・・・」という数字ではなく、「 子・丑・寅・卯 ・・・」と、十二支が使われていました。
十二支とは、子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥の、12種からなっていますよね。
この順番通り、12日ごとに巡ってくるのが「丑の日」というわけです。
十二支って、1年ごとだけじゃなく、1日ごとにも巡っているんだね!
そう。ですので、土用の期間中に巡ってくる丑の日のことを、「土用の丑の日」と呼んでいるのです。
丑の日が2回くることもある
「土用」はおよそ18日間ですから、必ず一回は丑の日がきますね。
でも巡りあわせによっては、2回やってくることも珍しくありません。
そんな場合は、「一の丑」「二の丑」と呼び分けています。
じつは「土用=丑の日」は夏土用だけ
土用といえば「丑の日」が連想されますよね。
しかし、丑の日を重要視しているのは夏土用だけです。
もちろん、夏以外の季節の土用にも「丑の日」は巡ってきますが、1年に4回ある土用は、季節によって大事な干支が違います。
季節 | 干支 | 備える食べ物 |
---|---|---|
春土用 | 戌の日 | 「い」のつく食べ物・白いもの。 (いわし、イチゴ、イカ、いくらなど) |
夏土用 | 丑の日 | 「う」のつく食べ物・黒いもの。 (うなぎ、うどん、土用しじみなど) |
秋土用 | 辰の日 | 「た」のつく食べ物・青いもの。 (さんま、大根、玉ねぎ、たけのこなど) |
冬土用 | 未の日 | 「ひ」のつく食べ物・赤いもの。 (ヒラメ、ヒラマサ、ひじき、トマトなど) |
近年では、夏以外の季節の土用でも「土用の丑の日」とよく耳にするようになりました。
これは、うなぎ業界が1年を通してうなぎを食べてもらいたいという流れから、「土用=丑の日」の定着がすすめられているようです。
伝統的には、夏以外は上記の干支の日で、食べるものも違いますので、ぜひ覚えておきたいですね。
季節ごとの詳しい食べ物は、以下の記事にまとめています。
2025年の土用の丑の日はいつ?
年に4回ある土用は、季節によって、大事にしている干支が違います。
春土用は「戌の日」、夏土用は「丑の日」、秋土用は「辰の日」、冬土用は「未の日」です。
この項では、伝統的な干支の日と、丑の日もあわせてご紹介します。
2025年の「土用」「土用の干支の日」の日程は、このようになっています。
冬の土用
冬の土用 | 2025年1月17日(金)~2月2日(日) |
---|---|
冬土用の「未」の日 | 2025年1月26日(日) |
冬土用の未の日は、ひつじにちなんで「ひ」のつく食べ物や、赤いものを食べます。
ヒラメ、ヒラマサ、ひじき、トマトなど。
春の土用
春の土用 | 2025年4月17日(木)~5月4日(日) |
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春土用の「戌」の日 | 2025年4月23日(水) |
春土用の戌の日は、いぬにちなんで「い」のつく食べ物や、白いものを食べます。
いわし、イチゴ、イカ、いくら、芋など。
夏の土用
夏の土用 | 2025年7月19日(土)~8月6日(水) |
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夏土用の「丑」の日 | 2025年7月19日(土)・7月31日(木) |
夏土用の丑の日は、うしにちなんで「う」のつく食べ物や、黒いものを食べます。
うなぎ、うどん、梅干し、土用しじみなど。
秋の土用
秋の土用 | 2025年10月20日(月)~11月6日(木) |
---|---|
秋土用の「辰」の日 | 2025年10月26日(日) |
秋土用の辰の日は、たつにちなんで「た」のつく食べ物や、青いものを食べます。
さんま、大根、玉ねぎ、たけのこなど。
「丑の日」を知りたい場合はコチラです
冬土用の丑の日 | 2025年1月20日(月)・2月1日(土) |
春土用の丑の日 | 2025年4月26日(土) |
夏土用の丑の日 | 2025年7月19日(土)・7月31日(木) |
秋土用の丑の日 | 2025年10月23日(木)・11月4日(火) |
夏以外もうなぎを食べたいな、という方は参考にしてみて下さいね。
「丑の日」を商機に養殖されたうなぎは、土用の時期に旬を迎えるよう調整され、とてもおいしいうなぎになっているそうです。
土用の発祥は中国の「陰陽五行思想」
土用は、日本が発祥ではありません。
その起源は、中国から日本に伝わってきた『陰陽五行思想』という考え方に由来しています。
陰陽五行思想っていうと、ちょっとわかりにくいですね。
この五行とは、「木、火、土、金、水」の5つをいいます。
つまり「この世のすべてのものは、この5つが循環することで成り立っているんだよ」と考えていました。
そこで、季節をこんなふうに例えていました。
昔の人の感性はおもしろいですね!
でも、おや?と思いませんか?「土」がありませんね。
あまってしまった「土」は、それぞれの季節のあいだ(18日間)に割り当てられました。
図にするとこのような感じです。
この発想で、春夏秋冬の4つの季節だけでなく、「土用」という第5の季節が生まれました。
昔は四季と土用で『五季』と考えられていたのです。
ですから、本来の土用は、立春・立夏・立秋・立冬の前の、それぞれ18日間をさし、年に4回あるのです。
土用の語源は?
土用は、ちょうど季節の変わり目です。
古い命は還ってゆき、また新しい命を育てていく・・・「土の気が旺んになる期間」のことを指しています。
ですので、この期間を「土旺用事」と呼んでいました。
この「土旺用事」の旺と事が省略され、「土用」となったといわれています。
土用の丑の日にうなぎを食べる由来
土用の丑の日といえば、うなぎですね。
真っ赤に燃えた炭の上であぶられた、あの香ばしい匂い!
では、土用のうなぎを食べる習慣がひろく一般化したのは、いつ頃なのでしょう?
平賀源内の宣伝アイディア説
出展;https://ja.wikipedia.org
じつはこれには諸説ありますが、もっとも定番の説は、江戸時代中期。
学者・平賀源内(1728~1780年)が、近所のうなぎ屋さんに「夏はうなぎが売れなくて何とかしたい」と相談されて、宣伝のアイディアを考えました。
そこで『本日、土用の丑の日』と書いた紙を貼りだしたところ、大盛況となった、というエピソードです。
これは、丑の日だから「う」のつくものを食べると縁起が良い、という語呂合わせだったようです。
縁起を担いだりシャレた語呂合わせが好きな江戸っ子には、魅力的なキャッチコピーだったのかもしれませんね。
さらに平賀源内といえば、江戸では雑学帝王的な存在でしたから、「いや~源内先生が言うんだから間違いない」といった具合で販売促進になったのではないでしょうか。
平賀源内説はデマ?
この平賀源内のエピソードは有名ですが、確かな文献が存在せず、あくまでも一説となっています。
ただ、証拠がないということで「平賀源内説はデマ」だと反論する方もいるようですね。
これは「歴史」ではなく「伝説」ですので、文字によって固定される史料にこだわるわけではなく、時間を超えた「語り継ぎ」であり、そのあいだに入るたくさんの聞き手にとっての「願望」が織り交ざった物語が紡がれていくのは、当然かもしれませんね。
文献がない以上、むしろデマであることの真偽すらわからないのですから、私たちは、どこか「人間」の理解に基づいて先入観を捨てられれば、素直に伝説を楽しむことができるでしょう。
もしかしたら、話のオチに「~そうな。」と付ければ、伝聞でしかないことを積極的に示されるので、「デマだ!」と声高に反論する人もいなくなるかもしれませんね!
蜀山人(しょくさんじん)の狂歌説
出典;https://ja.wikipedia.org
広告を考えたというエピソードは平賀源内ではなく、狂歌師・蜀山人(大田南畝)(1749~1823年)だという説もあります。
大田南畝こと蜀山人とは、平賀源内と同じく幕末を生きた、狂歌ブームの立役者であり、江戸のナンバーワン売れっ子狂歌師です。
こちらも平賀源内に似た内容ですが、蜀山人が、「神田川」といううなぎ屋さんに相談されたことがきっかけです。
そこで蜀山人が「土用の丑の日に、うなぎを食べたら病気にならない」という内容の狂歌を作って宣伝したというエピソードです。
そもそも狂歌ってなに?
狂歌とは、短歌の滑稽バーションと考えていいでしょう。
狂った歌と書くだけあって、日常のありふれていることを皮肉ったり、和歌のパロディで笑える歌にしていたりで、庶民の間で大流行しました。
狂歌師というと、チョットまともなヒトではないのかと思ってしまいますが、これが幼少の頃から頭脳明晰!
じつは蜀山人は、幕臣で勘定方の高級官僚という超エリート役人でありながら、文人としても名声を博した有名人です。
うなぎの真偽のほどは別として、200年以上経った今でも、土用の丑の日にうなぎを食べる習慣が継承されているのですから、これが本当なら、日本の広告史上に残るマーケティング成功例であることは間違いありませんね!
うなぎの効能は奈良時代には知られていた!
全国各地の遺跡からうなぎの骨が出土していることから、縄文時代にはうなぎが食べられていたのは、確かなようです。
しかし文献上で初めて出てくるのは、今から1300年ほど前の『万葉集』(奈良時代)です。
このような歌です。
石麻呂に 吾れもの申す 夏痩せに よしといふものぞ 鰻とり食せ
【訳】石麻呂よ、夏痩せに良いといううなぎを獲って食べなさい
巻16‐3853
この作者は、なんと有名な万葉集歌人・大伴家持です。
夏バテで痩せてしまった友人の石麻呂に、うなぎを薦めている歌です。
こんな昔から、うなぎは精のつくもの、という考えがあったようですね。
まずこの時代に「かば焼き」ではないにしろ、焼き物とか煮物にしていたのかもしれませんね。
うなぎ本来の素材を味わうには、白焼き(素焼き)が一番良い食べ方ですし、当時も絶品だったのではないでしょうか?
このように、日本には長い年月で培われてきた食文化の遺伝子があるのですから、わたしたちが夏にうなぎが食べたくなるのは、当然かもしれませんね!
おわりに
春夏秋冬それぞれにある土用ですが、本来「丑の日」というのは、夏の土用だけのものです。
近年ではうなぎ屋さんの商機として、春夏秋冬すべての土用の丑の日に販促されていますので、「土用といえば丑の日」の印象が強いかもしれませんね。
『土用の食い養生』という言葉があるように、昔の人は、うなぎだけでなく日本の季節にそった栄養のある食べ物を食べて、健やかに生きる工夫をしていたようです。
季節の変わり目は体調に気をつける必要がありますので、私たちも土用の風習を上手に使って、乗り切っていきたいですね。