「粋な食べ方」をするのが流行のような昨今。
しかしお相手がいる前であまりに「粋」を気取りすぎるのは、野暮に見えてしまいますね。
TPOにあわせた大人の嗜みは、誰から見ても真のスマートさを感じます。
ここでは、蕎麦屋でも恥をかかないためのマナーと美しい食べ方についてご紹介していきます。
粋なそばの食べ方とは?
せいろに盛られたそばを、つゆと薬味でシンプルにいただく。
原料は水とそば粉だけなのに、なぜか千差万別の繊細な味わい。それに奥深くて庶民的。
そばは、江戸の食の代名詞のひとつともいわれ、「江戸の粋」を今に伝える貴重な文化財でもあるともいわれていますね。
現代における「粋な食べ方」とは、日本古来の価値概念を再現した食べ方です。
その作法を挙げると、一例ですがこのようなものです。
- 一口目はつゆにつけずに、そばを食べる。
- ほんの少し塩をかけて食べるのも粋。
- つゆだけを少し味わう。
- 薬味はつゆに入れずそばに直接のせる。
- そばはつゆの1/3だけつける。
- 音を立てて一気に食べる。
- 細かく噛み砕かず数回程度噛んで飲み込む。
- 出されてから5分くらいで完食する。
- 食べ終わるまで喋らない。
一昔前、職人気質のある蕎麦屋では『こう食べて欲しい』と客側にこだわりを求めるお店もありました。
しかし現代においては、お店側も『そばの正しい食べ方なんてないですよ』というケースが大半を占め、食べ方の作法は、飲食店での良い佇まい、人に迷惑をかけない食べ方が求められています。
美しいそばの食べ方とは?
前述の粋な食べ方もいいのですが、作法としては美味しく食べることだけが主眼となっています。
しかし、接待時やお相手がいる場合は、他者に不快な思いをさせないのが大前提ですので、粋である努力をある程度捨てたほうが良いでしょう。
なぜなら、現代における「食」とは教養であり、そこには心得るべき常識が数多く秘められているからです。
長い歴史のなかで育まれてきた日本の食文化には、人と人が豊かに共存していくための知恵が詰まっています。
ここでは、大人の嗜みとして若い世代にも伝えたい、そばの食べ方をご紹介します。
つゆをそそぐ
そばつゆをそば猪口に入れますが、一度にたっぷり入れずに、そば猪口の1/3くらいにしておきます。
つゆが足らなくなったら、その都度新しく注ぎ足すのが良く、味も持続します。
薬味の扱い方
薬味はどう扱うのでしょうか。
前述の”粋な食べ方”では、薬味(ワサビ・ネギ)はそばに直接のせるのでしたね。
しかしワサビは、つゆに溶くのが「普通」です。
ツウと称する人は、「そばの上にワサビを少しのせ、箸で一緒につゆに運んでつけて食べよ」といいますが、これはかえってキザに見えます。
普通の蕎麦屋では、それほどたくさんのワサビは出ません。
ネギは、そばにのせても、つゆに入れても、どちらでも好き好きで大丈夫です。
ちなみにうるさい人にかかってしまうと「ネギは締めのそば湯を飲む際に入れるものだ」という人もいますが、もちろん決まりはありません。
そばの扱い方
そばは、せいろの中心からつまんで取るといいでしょう。
なぜかというと、そういう風に盛ってあるから取りやすいのです。
ただし、箸を高く上げるほどの量は持ち上げないようにしましょう。
そばは頬張るものではなく、数回かんで飲み込めるくらいの分量が望ましいです。
そばは三分
「そばは三分」とは昔からある言葉です。
箸でつまみ上げたそばの、下から三分くらい(1/3)つゆにつけて食べるという意味です。
こうすると、そばの香りと味、つゆの味が口の中で楽しめるというのです。
しかしこの食べ方は「つゆが濃い場合」であって、薄い場合には、半分つけても、全部つけてしまっても、作法上問題ありません。
ただし、つゆの中に全部入れて、箸でぐるぐる回すというのは不作法です。
そばをいただきます
鎌倉時代より武家の作法・礼法で知られる小笠原流。
その作法を調べたところ、そばは基本「静かに食べる」ことがよいとされていますが、それではちょっと不似合いです。
だからといってモグモグもいけません。
ここではツルツルっと食べることがおすすめです。
そばを「すする」という行為は、江戸時代から続く日本の食文化でもあるのですが、それを「音を立てて食べるのが常識」と言い切ることは正しくありません。
また、「できるだけ大きい音を立てた方が粋に見える」と思い込んでいる方もいますね。
昔のことわざに「過ぎたるはなお及ばざるがごとし」という言葉があります。
何事も適度が大事です。
江戸時代の蕎麦屋は、庶民が仕事の合間などに小腹を満たすものでもあったため、素早く食べる必要があり、音へのマナーなど野暮なことを言い出す江戸っ子はいなかった。
そんな名残が今になって「粋」となったのではないか、と言われています。
蕎麦屋では少しは音をたてた方がおいしそうに見えますね。適度に「ツルツルっと」美味しくいただきましょう。
そば湯を堪能しよう
最後に湯桶に入ったそば湯を飲みましょう。
そば湯の飲み方には、ルールはありません。
湯呑に注いでそのまま飲んでも構いませんし、残ったつゆのそば猪口に注いで割るのもおすすめです。
冷たいそばを食べた後には、気持ちのいいほどに体が優しく温められていきます。
不思議と心は落ち着くこの時間は、大切なお相手とリラックスして話題を切り出せる良い役割ももっていますね。
蕎麦屋でお酒を楽しもう
江戸時代、人気の蕎麦屋というと、男気溢れる江戸っ子の職人たちがお酒を飲みに行く憩いの場でもありました。
そばを注文してからの待ち時間がとても長かったため、待ち時間の間に「軽く1杯ひっかけていくか」という言い訳で、お酒を嗜むようになったそうです。
店主が取り寄せた自慢のお酒を飲み、待望の蕎麦を待つのが「江戸っ子の”粋”」だったということです。
あくまでも居酒屋ではなく、蕎麦屋。
長居はせず、蕎麦を十分に楽しんだら、さらりと店を出るのが”粋”というものです。
日が暮れる頃、そば屋の暖簾をくぐって、ちょっと一杯・・。
これを機会に、大人の蕎麦ライフを始めてみませんか?
そば前を楽しむ
友人と蕎麦屋でお酒を嗜むのはもちろん、仕事の軽い打ち合わせというも、決して失礼ではありません。
テーブルについたら、まずお酒を頼みましょう。
蕎麦屋のつまみは、焼きのり、出し巻き卵、板わさ(薄く切った蒲鉾にワサビと醤油を添えたもの)などが定番です。
蕎麦屋にあるおつまみは、蕎麦屋にある材料だけでつくられており、「そば前」というお酒の嗜み方は江戸時代の酒場文化のひとつといえます。
そんな蕎麦屋ならではのシンプルなつまみで飲むお酒は、しみじみといいものですね。
お酒を飲みながら打ち合わせを進めて下さい。
「ぬき」を注文しても
蕎麦屋でよく「ぬき」という言葉を耳にします。
これは「そば抜き」という意味で、例えば天ぷらそばの、そば無しのもの。
つまり、丼ぶりのつゆの中に、天ぷらだけ入っているものをいいます。
このあと締めのそば一枚では物足りないと思ったら、ぬきを注文し、それをつまみにじっくりとお酒を楽しむことができます。
注文する際は、『天ぬき』と言うのがベターです。
そばを注文する
話が終わったところで、締めのそばを注文し、そばを嗜みます。
これは昔からそばが好きな人なら、誰でもやっているスタイルです。
これこそ、日本の紳士的なそばの究極の楽しみ方といえます。
長居せずに蕎麦屋をあとにする
蕎麦屋は居酒屋と違って、ちょこっと飲んでそばを食べて帰る、という潔さがストイックで格好いいものです。
時には、老舗の蕎麦屋の暖簾をくぐってみたり、その伝統にふれながら杯を交わしたりなど、自分がちょっとだけ格好つけるための蕎麦屋があってもいいですね。
ぜひお店選びからこだわって、そばとお酒の奥深さを体験してみて下さいね!
まとめ
日本人なら誰しもが持っている「粋」という美意識ですが、それを過剰に追求してアピールしてしまうと、それはそれで「察しの悪い人=野暮」になってしまいます。
接待の場面やお相手がいる場合などはうまくコントロールしながら、楽しむTPOを覚えておきたいですね。