相撲界の最高位にして、誰もが憧れる存在「横綱」。
けれど、実際に横綱になるにはどんな条件が必要なのか、何人まで横綱になれるのか、なった後はどうなるのか――。
この記事では、横綱の意味・昇進基準・人数制限・引退のルール・歴代最強横綱ランキングまで、深く掘り下げて解説します!
横綱とは?【意味と由来】

横綱は、大相撲における最高位の力士です。
その呼称の由来は、“神聖な綱”を腰に締め、土俵入りの際に披露する「横綱土俵入り」からきています。
この白い綱には、神道における「穢れを祓う」意味が込められており、横綱の姿は単なるスポーツ選手ではなく、神事を司る存在そのものです。
横綱の歴史と最初の横綱

「横綱」という称号は、江戸時代後期に生まれました。
初代横綱とされるのは明石志賀之助ですが、確かな記録が残っているのは谷風梶之助以降です。
横綱制度の確立史(主要年表)
| 年代 | 出来事 | 備考 |
|---|---|---|
| 江戸時代後期 | 谷風梶之助が横綱土俵入りを実施 | 実質的な初代横綱 |
| 明治時代 | 横綱の称号が公式化 | 相撲協会により制度化 |
| 昭和時代 | 横綱審議委員会が発足 | 品格・人格が審査対象に |
| 平成~令和 | 外国出身横綱の登場 | 白鵬・照ノ富士など |
明治時代になると、横綱は正式に大相撲の階級制度に組み込まれ、最高位として確立。
以来、2025年現在までに第75代大の里までの横綱が誕生しています。
時代ごとに求められる横綱像は変わっており、昭和は「強さの象徴」、平成以降は「精神性と品格」がより重視されるようになりました。
横綱は何人まで?人数と定員
出典;https://www.nikkansports.com
多くの人が「横綱は何人まで?」と疑問を持ちますが、横綱に定員はありません。
条件を満たせば、何人でも同時に横綱になることができます。
実際の例
とはいえ、ほとんどの時代で同時期に4人が最多です。
- 昭和後期:輪島・北の湖・若乃花(2代)・三重ノ海(4横綱)
- 平成初期:千代の富士・北勝海・大乃国・旭富士(4横綱)
- 平成中期:曙・貴乃花・若乃花(3代)・武蔵丸(4横綱)
- 平成後期:白鵬・日馬富士・鶴竜・稀勢の里(4横綱)
昇進条件が非常に難しく、番付上で5人以上になったことは一度もありません。
横綱不在の時期もあるほど、その重みは特別です。
横綱になるには?条件と昇進基準

横綱になるには「成績」と「人間性」の両方で、相撲界の頂点としてふさわしいと認められる必要があります。
単に強いだけでなく、「勝ち方の内容」や礼儀作法、土俵外での振る舞いまで含めて総合的に評価されます。
横綱昇進の公式な基準
この「勝つだけでなく魅せること」が重要で、観客や評論家が「強さと美しさを兼ね備えている」と認める必要があります。
横綱昇進の明文化されていない「慣例条件」
おおむね、昇進前の2場所で合計26勝以上、かつ直前の場所で13勝以上を挙げることが一つの目安とされています。
元力士や解説者も、このラインを基準に言及することが多いです。
たとえば、「優勝と優勝次点(決定戦敗退)」の成績や、「連続準優勝に加えて相撲内容が圧倒的な場合」などは、横綱昇進が検討されるケースになります。
過去には、優勝経験がなくても3場所合計で33勝を挙げたことで昇進した力士もおり、こうした前例の幅広さが「慣例条件のあいまいさ」を生んでいるとも言われています。
勝つだけでなく「魅せる」こと
横綱に求められるのは、数字上の勝率だけではなく、内容的に相手を圧倒し、観客を魅了する相撲を取り続けることです。
立合いの鋭さ、攻めの姿勢、土俵際の粘りなど、見ていて「強くて美しい」と感じさせる取り口が高く評価されます。
土俵態度や物言いの時の振る舞い、負けた相手への礼なども注目され、「王者の品格」があるかどうかが昇進可否を左右します。
品格・人格・礼節という条件
横綱は「相撲界の顔」とされ、土俵外での言動、ファンサービス、メディア対応などでも模範的な態度が求められます。
酒席でのトラブルや暴力行為など、不祥事があれば昇進どころか引退勧告の対象となり得るほど、人格面のハードルは高いものです。
こうした背景から、横綱審議委員会は「成績だけ見れば基準クリアだが、品格面で再考すべき」といった意見を述べることもあります。
横綱昇進までの流れ
序ノ口 → 序二段 → 三段目 → 幕下 → 十両(ここから関取) → 幕内 → 三役(小結 → 関脇 → 大関)→ 横綱
多くの力士は入門から横綱昇進までに数年〜10年以上を要し、どこかの段階で伸び悩んだり故障したりして、到達できないケースがほとんどです。
大関になってからも、そこからさらに「連続優勝クラスの抜けた成績」が必要なため、歴代横綱は相撲史全体でもごく少数に限られています。
横綱審議委員会の役割
出典;https://www.sponichi.co.jp
横綱昇進の最終判定を行う機関が「横綱審議委員会(横審)」です。
横綱審議委員会の構成と役割
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 組織 | 相撲協会とは独立した外部委員会 |
| メンバー | 学者・文化人・実業家など約15名 |
| 機能 | 横綱昇進の推薦、現役横綱への助言 |
| 判断基準 | 成績・品格・人格・社会的責任 |
横綱審議委員会は、単なる成績審査機関ではなく、「横綱として社会的に尊敬される人物か?」という視点で判断を下します。
詳しくは、こちらの記事で紹介しています。
横綱の特権と責任
横綱は力士の中でも唯一無二の存在。
力と技、そして人間としての品格を極めた者だけが到達できる、相撲界最高位の地位です。
しかし、そこに立つことは“名誉”であると同時に、“覚悟”を背負うことでもあります。
横綱だけに許された特権
降格がない唯一の地位
横綱は、大関以下のように成績によって降格することがありません。
一度その地位に就けば、最後まで「横綱」の名を背負って土俵に上がります。
格式ある「横綱土俵入り」
立派な綱を締め、選ばれた力士だけに許される特別な儀式。
それが「横綱土俵入り」です。
神前で力と清めを示すこの所作は、相撲が単なる競技ではなく神事であることを象徴しています。
引退後も残る「元横綱」という称号
横綱は引退後も「元横綱」としてその名を永遠に残します。
たとえ現役を退いても、相撲界における影響力と尊敬は色あせません。
まさに名誉職といえるでしょう。
横綱に課せられる重い責任
「相撲界の顔」としての自覚
横綱の一挙手一投足は、協会全体の印象を左右します。
土俵上の態度、取組後の言葉、さらには日常生活での行動まで、常に“横綱らしさ”が求められるのです。
「品格」と「強さ」の両立
横綱は勝ち続けるだけでなく、勝ち方にも美しさが問われます。
無理な変化や相手を侮るような振る舞いは、たとえ勝っても批判の対象になります。
観る人が「これぞ横綱」と唸るような堂々とした相撲こそ、真の責任の果たし方です。
衰えを感じたら自ら身を引く潔さ
降格のない地位だからこそ、力の限界を悟ったときは自ら引退を決断しなければなりません。
誰にも下されることのない「自己判断の美学」が、横綱の真価を決める最後の試練です。
引退の美学と品格
横綱は「勝てなくなったからではなく、横綱としての自覚を保てなくなったら」引退します。
この精神を「潔さの美学」と呼びます。
横綱たち、それぞれの引退物語
歴代の横綱たちは、それぞれの生き様のままに土俵を去っていきました。
千代の富士 — “ウルフ”の愛称で親しまれた名横綱。徹底した鍛錬と闘志で時代を支配しましたが、衰えを感じたその瞬間、自ら潔く引退を表明しました。
「体が言うことを聞かなくなった」という一言には、横綱としての誇りと覚悟がにじんでいました。
朝青龍 — あふれる闘志と強さで時代を築きながらも、土俵外での問題を受けて自ら幕を引きました。勝敗以外の「責任」と向き合った引退です。
白鵬(元・宮城野親方) — 度重なる怪我と闘いながらも数々の記録を打ち立て、頂点のまま堂々と身を引いた姿は、まさに「王者の終幕」。その華々しさは横綱の新しい時代を象徴しました。
貴乃花 — 国民的横綱として愛されながら、怪我で満身創痍のまま相撲人生に幕を下ろしました。その姿には「勝ちよりも志を貫く尊さ」が宿っていました。
こうして見ても、引退の形には一つとして同じものがありません。
しかし共通して言えるのは、「自らの意志で土俵を去る」という誇りと覚悟です。
その背中を見て育った若い力士たちが、次の時代の力と品格を受け継いでいくのです。
歴代最強横綱ランキング

2025年時点で歴代75人の横綱が誕生しています。
そのなかでも特に“最強”と評される5人を紹介します。
時代も相撲のスタイルも異なりますが、どの横綱も土俵の上で「圧倒的な強さと品格」を放ちました。
1位 白鵬(第69代)〈平成~令和〉
史上最多45回の優勝を誇る“記録の王者”。
圧倒的な強さと豊富な技で長く土俵を支えた一方、その存在は常に議論を呼び起こすなど、時代を象徴する力士でした。
賛否を超えて、相撲界に大きな足跡を残した“平成~令和”を代表する横綱です。
2位 大鵬(第48代)〈昭和〉
「巨人・大鵬・卵焼き」とも称された、昭和の国民的ヒーロー。
優勝32回を誇り、圧倒的な安定感と洗練された相撲で、土俵の美学を体現しました。
その存在は勝敗を超え、力士の理想像として今も語り継がれています。
3位 千代の富士(第58代)〈昭和~平成〉
“ウルフ”の異名を持つ孤高の肉体派横綱。
小柄ながら鋼の肉体と闘志で巨漢力士をなぎ倒し、見る者の心を奮わせました。
「体より心で勝つ」姿勢が、人々に勇気を与え続けました。
4位 貴乃花(第65代)〈平成〉
若くして頂点を極め、平成の土俵を熱狂で包んだ大横綱。
数々の激闘やケガを乗り越え、己を極限まで追い込む姿に誰もが息を呑みました。
勝利への執念と気迫は、まさに“平成の魂”そのものでした。
5位 北の湖(第55代)〈昭和〉
21歳で史上最年少横綱に昇進した天才。
常に冷静沈着、勝負どころを見極める鋭い感性で相手を圧倒しましが。
あまりの強さゆえ“憎らしいほど強い”と恐れられた、昭和の怪物です。
一般向けWebアンケートでの「歴代最強横綱」では、1位千代の富士、2位大鵬、3位白鵬、4位北の湖、5位貴乃花などの結果が出ており、「昭和〜平成の人気・イメージ」も強く反映されています。
「平成〜令和で一番強い横綱」投票では、こちらも千代の富士が1位、白鵬・貴乃花・朝青龍が続く結果が報告されています。
「数字で見た歴代最強」なら白鵬、「人気とイメージを含めた最強」なら千代の富士・大鵬・白鵬・貴乃花あたりという評価が主流です。
横綱土俵入りの型と意味
横綱土俵入りには2つの型があります。
どちらも古来の武士的所作を受け継いだものです。
どちらが上ということはなく、横綱自身の気性や理想とする相撲に合わせて選ばれるものです。
| 型の種類 | 特徴 | 理念 | 主な横綱例 |
|---|---|---|---|
| 雲龍型 | 左腕を折り曲げ穏やかに構える | 無駄のない動きにこそ真の強さが宿る武士の精神 | 貴乃花、白鵬、照ノ富士 |
| 不知火型 | 両腕を上げ、力強さを演出 | 燃える闘志と攻めの気持ちを体現した力の儀式 | 朝青龍、若乃花、北の湖 |
雲龍型は「静の美」、不知火型は「動の美」と呼ばれ、横綱の性格や相撲スタイルが表れる部分でもあります。
横綱という生き方の象徴
横綱が立つ土俵は、もはや試合の場ではありません。
「礼に始まり礼に終わる」日本文化の象徴なのです。
横綱とは、勝つ者ではなく“勝つ姿を見せる者”。
その立ち振る舞い、言葉、視線──
横綱とは、まさに日本人が憧れ続ける生き方そのものを象徴しているのです。
おわりに
横綱とは、ただ強くあるために努力を重ねるだけでなく、どんな時も自分を律し、誇りを守り抜く存在です。
その姿を見て、私たちは「人としてどうあるべきか」を自然と思い出します。
勝ってもおごらず、負けても挫けない——そんな横綱の姿勢に、誰もが心を動かされるのではないでしょうか。
時代が変わっても、この精神はきっと、多くの人の心に生き続けるはずです。


