日本で電柱がなくならないのはなぜ?電柱が多い理由は?無電柱化するメリット・デメリットを解説!

日本で電柱や電線がなくならないのは、どうしてでしょう?

それどころか、今も増え続けているというから驚きです。

世界で見ても、電柱の地中化率がかなり低い日本。

そこで今回は、なぜ日本は電柱が多いのか、その理由や由来について解説してみたいと思います。

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電柱は何のためにあるの?

住宅街にある電線

電柱といえば、電気を送るためのもの、と思う方も多いのではないでしょうか。

でも、よく見てみるといろいろな線がついていますよね!

かかっている線は、主にこの2種類です。

  • 電気の線・・・電力会社が電気を送るための線
  • 通信の線・・・NTTなどの通信会社のインターネット・電話・ケーブルテレビなどの線

電気だけでなく、電話やインターネットもつないでくれています。

それだけではありません。

電柱には、街灯や、防犯カメラがついているものもあります。

こうした機能をつけることで、わたしたちの安心や安全を守る役割もあるのです。

「電柱って邪魔だな~」と思ってたけど、じつはぼくたちの生活にとても大切な役割をしているんだね!

ちなみに、かかってる線によって、電柱にも呼び名が3つあります。

  • 電力柱でんりょくちゅう・・・電気の線
  • 電信柱でんしんばしら・・・通信の線
  • 共用柱きょうようちゅう・・・電気の線と通信の線が両方かかっている柱

この3つを総称して、わたしたちは「電柱」と呼んでいます。

(昔の人は総じて「電信柱でんしんばしら」と呼んでいました。若い方は使わないかもしれませんね…!)

いろいろな呼び方をする電柱ですが、素材にもいくつかの種類があります。

コンクリート、木製、鉄鋼など。

今はすっかりコンクリート製が主流ですので、昔ながらの木製電柱に出会うと、目頭が熱くなってしまう・・・なんて方も多いかもしれませんね!

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電柱があることのデメリットは?

住宅街にある電柱と電線

当たり前のように街の景色の一つとなっている電柱ですが、なかなか深刻なデメリットもあります。

それぞれどんなものがあるのか、見ていきましょう。

①災害時の倒壊リスク

災害時には、電柱の倒壊がよく発生します。

倒れること自体も危険なのに、道路をふさいで交通の妨げになってしまうので、「二次被害」が拡大してしまいます。

緊急車両や生活物資の輸送路をふさいでしまうと、人命の救助・火災の鎮火が遅れ、ライフラインの復旧、支援物資の運搬もできなくなるのです。

実際に阪神淡路大震災では、電柱が倒れて道路をふさいだことで、消防車や救急車が通れなくなる問題が発生し、火災で7,000棟以上もの建物が焼失、人命救助も遅れるなど深刻な事態に陥りました。

②災害で停電が発生しやすい

電柱が地上にあることで雨風災害などの影響に弱く、断線トラブルがおきやすいです。

停電が起きると、家庭でのライフラインがほとんど使えなくなるほか、インターネットの接続不能、スーパーやコンビニなどでの商品ロス、信号機の停止など、社会に対して多大な影響を与えます。

③交通事故がおきやすい

せまい歩道や路肩をふさぐように立っている電柱をよく見かけますよね。

これは歩行者や、自転車に乗っている人、ベビーカー、車いすの方にとってリスクが高いものです。

電柱を避けようとすると車道に出ることになるので、車と接触してしまう事故が起きています。

また、車が電柱に衝突する事故では、全事故と比べて「死亡に至る確率が10倍」というデータがあります。

電柱は壁などと比べて表面積が小さいため、衝突した時に大きな力がかかるようです。

④景観が悪い

「電柱があると景観が悪くなる」というのは、個人の美醜の感覚による問題のような気がしますよね。

しかし、電柱の景観問題は、防災に並んで「無電柱化」を目指す大きな要因のひとつに入っています。

なぜなら良好な景観をつくることは、観光振興の観点から重要な施策となっているからです。

とくに、歴史的街並みなど観光客が多く訪れる地域では、景観面の観点から「無電柱化」を積極的に実施しています。

⑤鳥のフン被害

電線の下を歩いていたら、フンを落とされてしまった!なんてことはありませんか?

中には、道路がフンで真っ白!なんて場所もありますね。

鳥のフンにはさまざまな病原菌が大量に潜んでおり、感染症やアレルギーなどの健康被害をもたらす危険性があります。

乾燥したフンが風に飛ばされ、菌を吸い込んだことで、呼吸器疾患を引き起こすオウム病や、結膜炎を引き起こすニューカッスル病など、さまざまな感染症を引き起こした事例が数多くあります。

人体に各種病気を引き起こす鳥のフンは、とくに抵抗力の弱い方には注意が必要です。

⑥空き巣の侵入経路になる

泥棒が電柱に登り、2階から建物に侵入するケースが少なくないようです。

特にベランダの目の前に電柱がある場合は注意が必要です。

電柱に足場ボルトがついたままなら電気会社に連絡し、足場ボルトを取り外してもらいましょう。

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無電柱化とはなんだろう?

無電柱化された新興住宅

「無電柱化」とは、地中に埋めて、電柱そのものをなくすことをいいます。

こうすることで、大きく分けると以下の3つのメリットがあります。

  • 景観の向上
  • 街の防災性能があがる
  • 安全で円滑な歩行空間が確保される

無電柱化はこれまで日本でほとんど進んでおらず、実現への壁は高いものです。

国土交通省の調べによると、日本と海外の整備状況はこのようになっています。

世界の無電柱化グラフ
引用;国土交通省調べから作図

ヨーロッパの主要都市であるロンドンやパリ、香港、シンガポールといった主要都市は、既に無電柱化は100%です。

日本の近隣である台湾の台北も、96%と高水準。

一方、日本ではどうでしょう。

もっとも進んでいる東京でもわずか8%、大阪市は6%です。

こうして見ると、日本がいかに無電柱化率かが進んでいないかがわかりますね。

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日本ではなぜ電柱がなくならないの?

里山の田舎道にある電柱

自然災害が頻発する日本こそ、どこよりも無電柱化を進めなくてはならないはずです。

それなのになぜ、他国のように「無電柱化」が進まないのでしょう?

電柱がなくならない理由は何なのか、見ていきましょう!

①費用がかかる

電線を地中に埋めるのは、電柱を地上に建てるよりも費用がかかります。

この費用というのは、国・地方自治体・電力会社の三者が、3分の1ずつ負担することになっています。

では、どのくらいの費用かかるのでしょうか。

地中には、すでに水道管やガス管などが埋まっているため、場所によって費用に差はあります。

分担する三者のうち、電力会社の負担分だけでも、道路1キロ当たり1億~5億円と、電柱の約3~10倍にもなるようです。

例えば、東京都の道路の総延長は2万5000キロありますから、これを仮に1キロあたり3億円とした場合、およそ7兆5000億円かかることになります・・・!

これほどまでの高額だと、とくに地方自治体はかなり大きな負担となってしまいますね。

こういったことから、行政が多額の税金を使って無電柱化をすすめすることに対して反対する意見も出ているのです。

無電柱化を実現していくには、もっと低コストとなる手法を普及させることが課題となっています。

②工事を進めるのが難しい

電柱といえども、複雑な権利関係があります。

まず、かかっている電線には、電力会社、電話会社、ケーブルテレビなどの事業者が所有者になっています。

電線所有者にとっては、今ある電柱を撤去しなければならないため、まずその撤去費用をどこが負担するのかが大きな問題となっています。

また、電柱が立てられている道路には、国道・都道府県道・市区町村道などがあり、それぞれに管理者が違います。

そこには周辺の住民や商店、経産省、国交省、総務省などの監督官庁も関わってきます。

こういった私有地などの調査や、工事に対する周辺住民への理解を求める必要があります。

このようなさまざまな背景から、多くの人々や団体の足並みがそろわず、日本ではなかなか無電柱化の工事が進んでいないのです。

③道幅が狭い

無電柱化するということは、電柱の上に乗っていたトランス(変圧器)は、地上に設置することになります。

そのための道幅は、最低でも2.5メートルは必要とされています。

道幅が狭かったり、歩道がない場所では、現状では技術的にも無電柱化は困難とされています。

④復旧に時間がかかる

地中線は電柱より災害に強いものの、復旧が早いのはやはり電柱です。

電柱は地上にあるため、破損個所をすぐ特定し、復旧作業を行うことができます。

しかし、地中で電線がダメージを受けた場合、歩道にあるフタから地下へ潜って作業を行いますが、破損個所の特定に時間がかかり、場所によっては掘り返しが必要になることもあります。

その復旧にかかるコストは、地上の電柱より高くなるようです。

こうしたコストや維持費は、電気料金などに付加される可能性もあるといわれています。

⑤日本人の景観に対する無関心

日本では電柱のある風景が当たり前となっていますが、海外の人たちにとっては無電柱化が当たり前です。

なので海外の人々が日本に来ると、電線が空を覆う混沌とした風景に驚くようです。

海外では景観の秩序を乱すことに対してとても厳しく、「地域の景観を守りたい」と考えている人が多いそうです。

しかし日本では「費用の負担はしたくない」という考えの人や、「うちの前で工事されるのは嫌だ」と反対する人も多く、住民の理解が一向に進まないのが現状です。

また「そもそも無電柱化を知らない」という無関心さも大きな問題となっています

イギリスでは130年も前から地中化を守っているのに比べ、日本はまだ30年ほど前のことです。

生まれたころから電柱がなかった海外と、電柱や電線がある風景で育った日本人では、意識の違いに差があっても仕方ないのかもしれませんね。

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電柱がなくなると探偵が隠れる場所がなくなる!?

尾行する刑事

よくテレビドラマでは、電柱に隠れながら尾行している刑事や探偵の姿が描かれてますよね。

そこで電柱がなくなったらどこに隠れるのでしょうか?

元警視庁刑事の吉川祐二氏によると、「電柱に隠れて尾行するのはドラマだけで、あんな目立つことはやりません」と話しています。

電柱に身を隠すシーンは緊迫感を出すには絵になりますが、現実には対象者に一発でバレてしまいます。

探偵の場合は、カバンの中にカメラを仕込み、Wi-Fiでスマホに繋いで、スマホを見てる通行人を装っていることが多いそうです。

あのおなじみのシーンはドラマだけの世界だったようですね。

ただ、交通事故の衝突点の距離を測定するのに、電柱を使うケースが多いそうで、そういった点から「無電柱化するとちょっと困るかも…」と話しています。

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なぜ電柱をたくさん建てちゃったの?

都会にある電柱と電線

実は、日本でも大正時代には無電柱化が進められていました。

もともと地中化する技術はあったのに、なぜここまで電柱を増やし続けてきたのでしょうか?

戦後復興

第二次世界大戦後、焼け野原になったことで応急的な処置が必要になり、低コストの電柱が建てられました。

安く、早く整備できることを目的に、電柱に電線をつけ、張りめぐらせたのです。

その後の日本は、世界でも奇跡と呼ばれるくらい経済成長を成し遂げました。

高度経済成長期には大量の電力消費に対応するため、需要増に伴いどんどん電柱を増やし続けていきました。

高いテクノロジーの上に、日本の景観はどう反映されたのでしょう。

街中の空を縦横無尽に張り巡らさせられる、電線の無法地帯となりました。

先進国の仲間入りした日本ですが、無電柱化された先進諸国との景観の違いを感じつつも、電柱がもたらすさまざまなデメリットを意識することなく生活してきたといえます。

そして現在では、電柱を減らすどころか、毎年7万本ペースで増え続けており、現在およそ3500万本以上もの電柱が林立しています。

これは、新たに電柱を建てることへの規制がなかったことも増加の一因です。

それゆえ撤去費用などのコストの問題も重なり、活発な無電柱化が行われなくなってしまったのです。

簡単には進められない事情もありますが、近年では、災害の頻発化、高齢者等の増加、観光需要の増加などにより、無電柱化の必要性が増してきています。

今後は、さまざまな施策を展開するなかで、電柱のない安全・快適な街並みが私たちの身近にも広がってくれるといいですね。

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おわりに

日本の道路総延長は、約120万キロメートル。

1年間でもっとも地中化工事が進んだ年で、およそ440kmだったそうです。

このままいくとすべての無電柱化が完了するのは、約2,700年後という計算になります・・!

きっとその頃には電気も通信も無線化され、そもそも電柱も電線もいらない時代になっているかもしれませんね。

この先、日本の無電柱化が進むかどうかは、技術進歩による低コスト化と、日本の多くの人々の意識改革にかかっていると言えそうです。

 

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