日本の伝統芸能といえば、能、狂言、歌舞伎ですが、テレビのニュースでちょっと目にしたぐらい、という方も多いのではないでしょうか。
そもそも違いがわからない、という方も多いかもしれませんね。
そこで今回は、能、狂言、歌舞伎の明確な違いを、わかりやすく解説してみたいと思います!
能とは?
出典;https://japanculturalexpo.bunka.go.jp
読み方は「のう」です。
まず上の写真のようなちょっと怖いお面をつけていたら、それは「能」です。
この怖いお面、その名も「能面」と言います。
能は、「能面」という仮面を使う、仮面劇だと覚えておきましょう。
能は悲劇のミュージカル
劇と言っても、テレビとか映画で見るような演劇とはちょっと違います。
能は「舞踊」と「音楽」が中心の演劇で、高いストーリー性があります。
「謡」という声楽と、「囃子」という楽器の演奏に乗せて、舞いながらストーリーが進んでいきます。
ですので能は今で言う、日本のミュージカルといえます!
能のレパートリーは、現在、約260曲が伝えられているそうです。
ストーリーは、古い日本の文学作品を材料にしたものが多く、悲しい結末の「悲劇」が多いです。
その悲しみの余韻を味わうために、終演時に拍手をしない方がよいと考える能ファンも多いようです。
セリフも古い日本語がそのまま使われているため、言い回しも独特です。
能+狂言=能楽
「能」は、このあとご紹介する「狂言」と、同じ能舞台で演じられます。
実はこの2つを順番に見て楽しむのが本来です。
これを「能楽」と言います。
そう、能と狂言は、例えて言うなら、性格の違う「双子の兄弟」です。
この双子兄弟のユニット名が「能楽」だと覚えておきましょう。
能と狂言は「生まれが同じ」
能は、今から1300年くらい前の奈良時代に、中国から日本に伝えられました。
その当時は、散楽と呼ばれていて、物まねとか、歌謡、曲芸などの見世物芸でした。
初めは国が設けた「散楽戸」という機関で、役者の養成もしっかり行われていました。
ただ、散楽戸は平安時代になると、なくなってしまいます。
その後、散楽戸の芸能は、民衆に伝わっていたお笑い芸と結びつき、「猿楽」と呼ばれるようになりました。
この頃の猿楽は、物まねや言葉遊びなどを中心とした、寸劇のようなものだったようです。
室町時代になると、物まねなど面白おかしい内容のものが、「狂言」に。
鎌倉時代になると、ストーリー性の高い演劇が、「能」となって、確立されていったのです。
現在では、
と分けて扱い、最近はバラバラに上演されることも増えましたが、「同じ能舞台を使う」という共通点があるのは、成り立ちが同じだからです。
狂言とは?
出典;https://www.chunichi.co.jp
読み方は「きょうげん」です。
狂言は、お面はかぶらず、対話を中心としたセリフ劇です。
「狂言」と言うくらいですから、狂言の大きな特徴は「笑い」です。
お笑いの元祖であり、今の漫才・落語・新喜劇・コントなどのルーツに当たります。
名もない普通のおじさん、おばさんが登場人物となっているため、まず、舞台上に人物が登場すると「名乗り」と言われる自己紹介をするのが鉄板です。
さらに狂言は「・・・でござる」という、室町時代に主に庶民で使われていた「ござる調」がベースとなって、話が展開されていきます。
話の内容は、庶民の日常生活から題材をとったものが多く、武士や僧を面白おかしく嘲笑するようなものもあります。
ですので、狂言は、平たく言うと「しゃべくりのヒューマンコメディ」です。
とはいえ、狂言は、ただのお笑いだけではありません。
狂言で描かれる笑いの裏には、教訓や警句が潜んでいたり、人間の喜怒哀楽すべてを包む奥深さがあります。
それが、狂言が時代を超えて、私たちの共感を得ながら親しまれている理由のひとつです。
能のような憧れの世界観とは違い、狂言は、庶民である私たちに親しみやすさを感じさせるという、明らかに大きな違いを生み出しています。
夢の世界と現実の世界、その違いをあえて舞台の上で作っているのです。
狂言の起源は、先で紹介した「能」と同じです。
もともと能と狂言は成り立ちが同じで、同じ芸能でしたが、多彩な物語を劇的に描く「能」と、親しみやすく滑稽な内容の「狂言」に、分かれるようになりました。
狂言も能も、長い歴史を持っていますが、人間のおかしみというのは、はるか昔から変わっていないことがわかります。
歌舞伎とは?
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読み方は「かぶき」です。
歌舞伎は、「音楽」「踊り」「芝居」がひとつになった、日本の伝統芸能です。
400年以上前の江戸時代から、多くの人々に愛されてきました。
主なお話の内容は、日本の中世や近世の歴史物語などが題材に演じられます。
歌舞伎は、派手な衣装、顔には「隈取り」という絵の具で線を描いた奇抜なメイク、そしてクライマックスには、にらむようなポーズを取る「見得」という特殊な動作が特徴です。
歌舞伎の名前の由来は、「傾く」です。
傾くとは、流行を追いかけて、あえて奇抜な格好をすることや、勝手な振る舞いをすること、という意味です。
流行を取り込んできた結果、今も作品数はどんどん増え、現在、主要なものだけでも約300作品はあるそうです。
昔から上演されてきた演目だけでなく、現代ならではの技術やアニメ、映画などの物語を取り入れた、新しい作品も上演され、今も多くの人を楽しませていますよね。
歌舞伎の成り立ちは派手なヤンキー
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江戸時代初期に、出雲阿国という女性が演じた、「かぶき踊り」が始まりと言われています。
阿国は、江戸城で徳川家康らに初めて「かぶき踊り」を披露しましたが、その頃はまだ「歌舞伎」ではありませんでした。
ちょうどこの頃、京都を中心に「かぶき者」と呼ばれる若者が増えていました。
「かぶき者」とは、先に書いた「傾く」という意味で、いわゆるアウトローたちのことです。
今で言うと、派手な格好で男気があるヤンキー系男子をイメージしていただければよろしいかと思います。
幕府にとっては彼らのことは悩みの種でしたが、庶民にはカッコよく思われて人気があったそうです。
阿国が演じた「かぶき踊り」は、まさに、この「かぶき者」を模したもので、彼女の踊りは爆発的な大ヒットとなりました。
阿国が踊ったのは、かぶき者が茶屋の女性と戯れる場面を含んだものであったため、かぶき踊は遊女屋(遊女のいるお店)で取り入れられ、「遊女歌舞伎」という名になって、大流行したのです。
同じ時期、「若衆歌舞伎」というのも広まっていきました。
「若衆」というのはいわゆる美少年のことであり、遊女の男バージョンの少年たちでした。
しかし、遊女と若衆をめぐって客同士の喧嘩やトラブルが絶えなかったため、幕府によって遊女歌舞伎・若衆歌舞伎の一切が禁止されてしまいます。
その後、成人男性だけの「野郎歌舞伎」が誕生しました。
その一番最初、初代「市川團十郎」が登場したのは、元禄年間(1688年~1704年)。
初代「市川團十郎」はじめ、初代「坂田藤十郎」、初代「芳沢あやめ」が大人気となり、歌舞伎は飛躍的に発展していきました。
このように少しずつ形を変えながら、現在の歌舞伎のスタイルが定着していき、昭和40年(1965年)、歌舞伎は重要無形文化財に指定されました。
ちなみに、「織田信長」、「伊達政宗」なども、周りから「うつけ」と呼ばれていたそうです。
「うつけ」とは「かぶき者」のことで、戦国時代に使われていた言葉です。
武勇に優れていながらも、常軌を逸した行動で知られており、さらの奇抜なファッションで自身の強烈な個性をアピールしていたようです。
真偽はわかりませんが、武士がかぶき者に傾倒することは多かったようですね。
能、狂言、歌舞伎の違い一覧表!
それぞれの芸能の特徴をご紹介しましたが、その違いを、ざっくりと整理してみました。
能 | 狂言 | 歌舞伎 | |
---|---|---|---|
時代 | 室町時代 | 室町時代 | 江戸時代中期 |
見た目 | 能面をつける | 素顔 | ・隈取りしている ・奇抜な衣裳 |
テーマ | ・古典文学 ・歴史上の人物の悲劇 | 庶民の日常を明るく描いた喜劇 | ・武将の武勇伝 ・庶民の色恋沙汰など |
演出 | 謡と囃子に合わせて舞う | 人間同士のセリフ劇 | 大掛かりな舞台装置 |
現代風 | 悲劇のミュージカル | お笑い劇 | エンターテインメント |
能、狂言、歌舞伎は、なぜ変な喋り方なの?
能、狂言、歌舞伎の、あの独特のセリフ回しは、正直何を言っているのかわかりませんよね。
でも実は、いずれの台本を見ると、誰もが理解できる日本語なのです。
昔の日本人は、みんなあのような発声方法だったのでしょうか?
昔は音響設備がない野外劇だった
昔は、現代のような音響効果を考えて設計された劇場などありませんでした。
多くの観客を集めるためには、必然的に野外劇が主でした。
もちろんマイクもありませんから、普通に台詞を喋っていたのでは離れた観客には聞こえません。
だからといって、ひたすら大声を出してばかりいるのも、声が潰れてしまいます。
そこで、声を響かせるような発声法で、遠くまで声が届くようにしたのが、あの喋り方と言われています。
これは歌の発声法と同じで、オペラもそうですが、音響設備のなかった時代の世界中の古典芸能は、ほとんどがあのような独特な発声法だと言われています。
ちなみに、日本テレビ『所さんの目がテン!』で、歌舞伎の声は本当に遠くまで聴こえるのか?という実験をしたところ、歌舞伎の声には3,000ヘルツもの周波数帯域を多く含むことがわかり、なんと通常の発声法の2.5倍以上も遠くまで届くことを証明していました。
おわりに
近年では、外国人観光客の注目度も高い日本の伝統芸能。
普段は見る機会が少ない伝統芸能ですが、あらためて我が国の文化を知るために、能、狂言、歌舞伎の世界に、一度足を踏み入れてみたいですよね。
ぜひそれぞれの芸能の違いを知って、あなたの好みの伝統芸能を見つけてみてくださいね!