くしゃみをしたとき「誰かが噂してるんじゃない?」なんて声をかけられたことはありませんか?
1回なら良い噂、2回なら悪い噂など、くしゃみの回数によって種類が違うようです。
これは本当なのか迷信なのか、その由来を含めて調べてみました。
どうしてくしゃみが出るの?
鼻で空気を吸い込んだ時に、小さなゴミが鼻の粘膜の中にある神経を刺激することがあります。
刺激された神経は、粘膜についたゴミを振り落として外に出そうとします。これがくしゃみです。
鼻毛はゴミの侵入をシャットアウトしてくれるし、粘膜の湿り気も小さなゴミやほこりを吸い取ってくれる重要な役割があるんだよ!
「くしゃみ」の語源は呪文だった
昔は、くしゃみをすると「魂が抜ける(早死にする)」と信じられていました。
そのためくしゃみをした人や、まわりにいた人も、早死にを防ごうと「くさめ、くさめ」と呪文を唱えていたそうです。
この「くさめ」。漢字で書くと「嚔」。
「嚔」は陰陽道の「休息万命」「休息万病」を早口で言ったものです。
この呪文は、鎌倉時代末期(1330年頃)の徒然草の作中にも登場しています。
確かに、くしゃみは風邪や感染症などの兆候ですから、医療が進んでいない時代では不吉なものとされていたのもわかりますね!
くしゃみをすると「噂されている」の由来は?
くしゃみをすると「どこかで噂されている」などと言いますよね。
これは、前述の語源のとおり、いわゆる「悪霊の仕業だ」と考えられていたのが、いつしか「誰かの呪いだ」という考えに変わり、「誰かが噂している」へと移り変わったものではないかと言われています。
くしゃみ=噂されているという連想は、かの万葉集の作中にも登場しています。
うち鼻ひ鼻をぞひつる 剣大刀身に添ふ妹し 思ひけらしも
【訳】
引用;万葉集 第11巻 2637番歌
くしゃみが出る、またくしゃみが出る。どうやら、腰につける剣大刀のようにぴったり寄り添ってくれている妻も私のことを思ってくれているらしい。
くしゃみが出たということは、人が自分のことを思ってくれている、良い話をしてくれている、といった内容の表現です。
くしゃみの回数にはどんな意味があるの?
くしゃみの回数によって意味があるのかを調べてみると、昔から多くの人によって伝えられてきたことわざがありました。
くしゃみの回数にまつわることわざを3つご紹介します。
①一誹り二笑い三惚れ四風邪
一誹り 二笑い 三惚れ 四風邪
くしゃみの回数による占いです。以下のような意味です。
- くしゃみ1回・・・誰かが悪口を言っている
- くしゃみ2回・・・誰かに笑われている
- くしゃみ3回・・・誰かに惚れられている
- くしゃみ4回・・・風邪を引く前触れ
②一に褒められ二に憎まれ三に惚れられ四に風邪を引く
一に褒められ 二に憎まれ 三に惚れられ 四に風邪をひく
くしゃみの回数による占いです。以下のような意味です。
- くしゃみ1回・・・誰かに褒められている
- くしゃみ2回・・・誰かに憎まれている
- くしゃみ3回・・・誰かに惚れられている
- くしゃみ4回・・・風邪を引く前触れ
③一に褒められ二に振られ三に惚れられ四に風邪
一に褒められ 二に振られ 三に惚れられ 四に風邪
- くしゃみ1回・・・誰かに褒められている
- くしゃみ2回・・・誰かに振られる
- くしゃみ3回・・・誰かに惚れられている
- くしゃみ4回・・・風邪を引く前触れ
以上3つのことわざ。くしゃみの回数の解釈には、いくつかのバージョンがありました。
しかしよく見てみると、くしゃみ3回(惚れられている)と4回(風邪を引く前触れ)は同じですね。
やはり1回と2回は、誰かが褒めたり悪口などの噂しているということになります。
くしゃみで噂されているのは本当なの?
くしゃみの回数と噂には当然ながら医学的に根拠がなく、全くの迷信です。
ではなぜこのような迷信が伝わったのでしょう。
くしゃみは自分では制御することができないため、人前で気まずくなることもあります。
そこでくしゃみを誰かのせいにすることで、その場がうまく収まるという配慮があったということです。
くしゃみは連発してしまうこともあるので、さらに回数によって噂の内容が異なるようになっていきました。
このような背景には、くしゃみをしても恥ずかしがらなくても良い、大丈夫だよ、という意味が込められているのです。
要は相手への気遣い。すてきな習慣だと思うよ!
くしゃみの回数と噂!海外では?
海外でも、くしゃみをすると「誰かが噂をしている」なんて言うのでしょうか?
調べてみると、くしゃみにまつわる言い伝えは、一部ですがアジアを中心として残されている国がありました。
また欧米圏では、くしゃみをした人を見たときに、見ず知らずの人が何かしら決まった言葉をかける習慣の国も多いようです!
くしゃみに関する海外の言い伝えなどご紹介します。
中国
- くしゃみ1回・・・誰かが想っている
- くしゃみ2回・・・誰かが悪口を言っている
- くしゃみ3回・・・誰かが噂をしている
ちなみに中国の北東部では、少し違うようです。
- くしゃみ1回・・・誰かが会いたがっている
- くしゃみ2回・・・誰かが悪口を言っている
- くしゃみ3回・・・風邪の前兆
日本と良く似ていますね。中国の最古の詩集である『詩経』の中に、このようなくしゃみの回数についての言い伝えが記述されています。
タイ
くしゃみ2回・・・誰かが会いたがっている
例えば友達に「あー、あなたのボーイフレンドが恋しく思ってるんだよ」とからかわれたりするそうです。
また、「きみの上司が会いたがっているんだね」などと冗談で楽しく使われているようです。
イギリス
なんとイギリスではくしゃみをした曜日ごとに違う内容です。
- 月曜日・・・何か危険なことが起こる
- 火曜日・・・知らない人とキスをする
- 水曜日・・・手紙が届く
- 木曜日・・・何か良いことがある
- 金曜日・・・悲しいことが起こる
- 土曜日・・・日曜日に恋人と会える
なぜ日曜日に何もないのでしょうか?言い伝えにも定休日が必要なのかもしれませんね!
スペイン
- くしゃみ1回・・・「健康」と声をかける
- くしゃみ2回・・・「健康とお金」と声をかける
- くしゃみ3回・・・「健康とお金と愛」と声をかける
くしゃみをした人はこれに対して「Gracias(ありがとう)」と答えます。
古代ギリシャ人やエジプト人にとってくしゃみは「神の警告」と考えられており、病から身を守るためにこのようなおまじないの言葉をかけていたようです。
この掛け声の習慣はローマ教皇グレゴリウス1世 (540年 – 604年) の時代に、カトリック教会を中心として広まったものといわれています。
オランダ
- くしゃみ2回・・・「あと1回!」と掛け声がかかる
- くしゃみ3回・・・明日は晴れる
オランダでは、1回のくしゃみには「お大事に」と声を掛けられることが多く、これは習慣ではなく単にオランダの方々の気さくな人柄によるものだということです。
アメリカ(英語圏)
くしゃみをした人を見たら「Bless you!」と言う。
くしゃみをすると幸運が逃げてしまうと言われているため、「神のご加護がありますように」と言う意味で掛け声をかけます。
くしゃみをした人はこれに対して「Thanks!(またはThank you!)」と答えます。
例え街角で見知らぬの人がくしゃみしても声をかけるため、初めて見る人は驚くかもしれませんね!
フランス
- くしゃみ1回・・・「願いが叶いますように」と声をかける
- くしゃみ2回・・・「恋愛がうまくいきますように」と声をかける
フランスではある種のおまじないのような感覚です。ちょっとロマンチックですね。
くしゃみをした人はこれに対して「Merci(ありがとう)」と答えます。
ドイツ
- くしゃみ1回・・・「健康」と声をかける
- くしゃみ2回・・・「美しく」と声をかける
- くしゃみ3回・・・「長生き」と声をかける
昔は「健康?」とくしゃみをした人に確かめる意味でしたが、今では「健康でありますように」と願う言葉になりました。
最近、マナーとして、このような掛け声を言っていいかどうか、しばしば議論されているようです。
ですが実際は「健康」を言う人はまだたくさん残っているようです。
トルコ
くしゃみをした人を見たら「長生きして下さい」と言う。
日本でいうところの「お大事に」のような意味合いです。
くしゃみをした人はこれに対して「Sen de görün(あなたも(私が長生きするのを)見てね)」などと答えます。
つまり、あなたもそれくらい長生きしてねという受け答えです。これを相手が誰であれ、軽い合言葉のような感覚で声をかけ合います。
ご紹介した国以外にも、くしゃみをすることで声掛けする風習のある国がまだまだあるようです。
日本にはない風習ですが、くしゃみをきっかけに、見ず知らずの人と何気ない会話ができるなんて楽しいですよね!
まぶしいと出るくしゃみは「光くしゃみ反射」
まぶしさを感じたときにくしゃみが出る人はいませんか?
このことを『光くしゃみ反射』と呼ばれるものです。
実は、全員そうなるわけではなく、ごく一部の人(日本人では約25%の人)だけが、この光くしゃみ反射を引き起こす遺伝子を持っているようです。
この遺伝子を持っている人は、光が刺激となって反射的にくしゃみをしてしまうのですが、そのメカニズムについてはまだ十分に医学的に証明されていません。
鹿児島大研究グループによると、目の瞳孔を小さくする筋肉と、鼻汁分泌に関係する神経がつながっていることを発見し、このことから、光を見たときに瞳孔が縮むとともに、鼻水が出てムズムズしてくしゃみが出るのではないか、と推測しています。
近年の、高速道路のトンネル出口付近で起こる事故や、飛行中のパイロットの事故などは、この光くしゃみ反射が原因ではないかとして注目され、今もなお研究が続けられています。
病気ではないものの、意外にデメリットが深刻な光くしゃみ反射。
事故につながる原因にもなりかねませんので、光くしゃみ反射体質の人は、車の運転や屋外での危険な作業時には、サングラスをかけるなどの工夫が必要ですね。
おわりに
くしゃみの回数や噂は関係ありませんが、その由来を紐解くと、長い年月で築かれた人々の優しい思いやりが潜んでいました。
医学が進歩した現在でも、くしゃみの後に不調を感じたり繰り返す場合は甘く見ずに、ゆっくりと休養を取ってくしゃみを治してしまいましょうね。